世界の日本語教育事情:歴史・組織・現状データの網羅的ノート

授業概要と今学期の予定

  • 講義名: 「世界教養プログラム」日本語教育と社会

  • 講義日: 20262026771414日(火)

  • 担当講師: 赤桐 敦(あかぎり あつし)

  • 注意事項:

    • スライド資料は予習・復習用に共有されるが、著作権は赤桐氏が保持するため、クラス外への共有、アップロード、再配布、引用は厳禁である。

    • コメント欄には個人情報や不快な内容を書き込まないこと。

    • 学期終了後にリンクが切断されるため、各自でダウンロード保存することが推奨される。

  • 20262026年度今学期のスケジュール詳細:

    1. 441414日: オリエンテーション、言語政策とことば

    2. 442121日: 社会と文化:社会と文化に対する様々な表象

    3. 442828日: 日本の在留外国人施策・日本語教育事情:現代日本の政策過程と日本語教育

    4. 551212日: 多文化共生:地域社会で求められる日本語教育

    5. 551919日: 多文化共生:年少者に対する日本語教育

    6. 552626日: 談話理解:日本語学習者が談話を理解するプロセス

    7. 6622日: 日本語に関する試験:学習者の社会参加と試験(課題「身近な日本語教室・日本語教育機関」6688日提出)

    8. 6699日: 日本国内の日本語教育事情(グループ発表)

    9. 661616日: 日本語教育史概説①:各国による日本・日本語研究の歴史

    10. 662323日: 日本語教育史概説②:国民国家における日本語教育の歴史

    11. 663030日: 日本語教育のための文字と表記:国家語教育と日本語表記の変遷

    12. 7777日: 各国の言語政策:さまざまな国や地域における言語と社会統合の原理

    13. 771414日: 世界の日本語教育事情:各国の日本語教育の特徴(課題「海外の日本語教育機関」772020日提出)

    14. 772121日: 海外の日本語教育事情(グループ発表)

    15. 772828日: クイズ・全体のふりかえり

    • 提出物最終締め切り: 773131

先週のふりかえりと対話

  • ふりかえり活動: 近くの33, 44名と以下の内容を共有・議論。

    1. 挨拶と簡単な自己紹介。

    2. 先週のキーワードの確認。

    3. 言及された国々:インドネシア、ベトナム、フィリピン、スイス、インド、キルギス、ニカラグアなど。

  • ウォームアップ・ディスカッション:

    • 問い: 「もし、日本国外で日本語教員になるなら、どんな国や地域がいいですか?都市、学校など、具体的にイメージを話し合ってください。」

各国の対外言語普及政策

世界各国は、国家戦略の一部として自国語の普及活動を行っている。主な機関は以下の通り。

  • イギリス: ブリティッシュ・カウンシル (British Council)

  • フランス: アリアン・フランセーズ (Alliance Française)

  • ドイツ: ゲーテ・インスティトゥート (Goethe-Institut)

  • 韓国: 世宗学堂 (King Sejong Institute)

  • 中国: 孔子学院

戦前の日本語普及政策と重要人物

戦前の日本語教育は、国家政策(文部省等)と密接に関連しており、当時の国語学・言語学の大家が集結していた。

  • 日本語教育振興会 (19401940-19451945): 文部省傘下の組織。

  • 関わった主な学者・専門家:

    • 長沼直兄 (18941894-19731973): ナガヌマ・メソッドの開発者。『標準日本語読本』の著者。

    • 松宮弥平 (18711871-19461946): 宣教師教育に従事。

    • 山口喜一郎 (18721872-19521952): グアン・メソッド、サイコロジカル・メソッドの提唱。

    • 佐久間鼎 (18881888-19701970): 音韻論。

    • 新村出 (18761876-19671967): 語源学、『広辞苑』編纂者。

    • 金田一京助 (18821882-19711971): アイヌ語研究。

    • 橋本新吉 (18821882-19451945): 学校文法の基礎を築く。

    • 服部四郎 (19081908-19951995): 言語学。

    • 時枝誠記 (19001900-19671967): 言語過程説を提唱。

  • 教育内容と教育観の変遷:

    • 戦前の教材例(ハナシコトバ等)では、「ソレワ カミデス」「コレハ ホンデス」といった基本的な物の名前の把握から始まる構造的アプローチが見られた。

    • 大東亜共栄圏構想と日本語教育: 当時の日本語普及は「大東亜共栄圏構想」という軍事・政治的背景と切り離せない関係にあった。教員の「戦争責任」についての議論も存在する。

釘本久春と文部省官僚の足跡

  • 釘本久春 (19081908-19681968):

    • 作家・中島敦(『山月記』著者)とは一高・東大時代からの友人。

    • 19391939年に文部省入局後、日本語の海外普及に従事。文部省による海外派遣の調整役として、木村宗男 (19111911-20052005) や小出詞子 (19211921-20022002) らを派遣した。

    • 戦後は文部科学省国語課長を歴任。国立国語研究所の発足、「現代かなづかい」、「当用漢字表」の策定に深く関与した。

    • 著作に『一等兵と子どもたち』(19431943)、『戦争と日本語』(19441944)、『これからの国語—当用漢字現代かなづかいの研究』(19471947)、『良寛物語』(19541954) などがある。

戦前の対外活動と留学生支援機関

  • 国際文化振興会 (19341934-19721972): 外務省所管。イギリスやドイツの拠倣い、日本の「文化的顕揚(けんよう)」のために設立。歌舞伎やバレエ等の文化紹介も行った。

  • 国際学友会 (19341934-): 外務省所管。非漢字圏からの留学生増加に対応するため、日本語教育を担当。小泉政権の法人改革により20042004年から「独立行政法人日本学生支援機構 (JASSO) 東京日本語教育センター」に再編された。

戦後の日本語教育と国際交流基金 (JF)

  • 国際交流基金 (The Japan Foundation): 「文化芸術交流」「海外における日本語教育」「日本研究と国際対話」を33本柱とする機関。

  • JF日本語教育スタンダード: CEFRの考え方を取り入れ、「課題遂行能力」と「異文化理解能力」の育成を支援する枠組み。

  • 日本語国際センター(埼玉県さいたま市、旧浦和市): 19891989年設立。海外の日本語教員への研修や教材開発を行う拠点。

  • デジタル・リソース: 教授法オンデマンド教材(読解、文字、作文、文法、会話、文化、評価の教え方)を展開。

  • その他の組織:

    • 国立国語研究所 (NINJAL): 国語および日本語教育に関する調査研究。

    • 海外産業人材育成協会 (AOTS): 経済産業省認可。主に産業・技術人材への日本語教育。

    • 国際協力機構 (JICA): 青年海外協力隊の派遣。

    • 日本語教育学会: 国内外の教員募集情報の提供。

世界の日本語学習者の現状 (20242024年度調査)

  • 学習者数推移:

    • 19791979年: 約12.712.7万人

    • 20242024年: 4,000,7504,000,750人(20212021年度の3,794,7143,794,714人から5.45.4%増加)

  • 地域別学習者数・割合:

    • 東アジア: 1,737,2041,737,204人 (43.443.4%)

    • 東南アジア: 1,294,4671,294,467人 (32.432.4%)

    • 大洋州: 454,700454,700人 (11.411.4%)

    • 北米: 152,419152,419人 (3.83.8%)

  • 国・地域別学習者数ランキング (20242024年度):

    1. 中国: 1,019,1971,019,197

    2. インドネシア: 732,914732,914

    3. 韓国: 555,396555,396

    4. オーストラリア: 424,316424,316

    5. タイ: 194,366194,366

    6. ベトナム: 164,495164,495

    7. 米国: 134,096134,096

    8. 台湾: 124,149124,149

    9. ミャンマー: 100,315100,315人(前年度比 424.6424.6%の大幅増)

    10. インド: 52,94652,946

    11. スリランカ: 34,65034,650人(前年度比 255.5255.5%増)

  • 教育段階別機関数割合:

    • 中等教育: 47.847.8%

    • 高等教育: 16.916.9%

    • 初等教育: 7.27.2%

    • 学校教育以外(民間など): 31.231.2%

  • 学習目的 (20242024年度上位):

    • アニメ・マンガ・J-POP・ファッション等への興味: 61.361.3%

    • 日本語そのものへの興味: 60.160.1%

    • 歴史・文学・芸術等への興味: 47.947.9%

    • 日本への観光旅行: 33.933.9%

    • 日本国内での将来の就職: 36.436.4%

東京外国語大学の役割と教材開発史

  • 留学生受け入れの歴史: 19541954年から国費留学生を対象とした予備教育を開始。小川芳男、鐘ヶ江信光らが携わった。

  • 留学生日本語教育センター (JLC) の歩み:

    • 19701970年: 附属日本語学校設立。初代校長は高橋一夫。

    • 19731973年: 『日本語Ⅰ』等の教材を開発。国際学友会の経験を持つ鈴木忍が中心となって推進。

    • 19791979年: 日中国交回復を受け、中国政府派遣留学生の予備教育を開始。

    • 19861986年: 留学生教育教材開発センター設置。

    • 19901990年: 『初級日本語』(三省堂)刊行。英語、中国語、タイ語、インドネシア語、スペイン語の単語帳を備え、世界中で採用された。

    • 20042004年: eラーニング教材「JPLAN」の公開。

    • 2026202633月末: JLCはその使命を終え、アーカイブ化が進行中。附属図書館にて教材開発の展示も予定されている。