刑事学 I 第13回:少年を取り巻く現状と課題

少年を取り巻く現状と課題:刑事学 I 第13回

少年犯罪(非行)の概要と目的

少年法の目的(第1条)
  • 条文全文: 「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」

  • 趣旨の解釈: 事案の真相解明や刑罰適用の実現を直接の目的に挙げず、少年の健全な育成の観点から「保護」および「教育」を優先する趣旨を明確にしている。

    • ただし、人権保障や真相解明、迅速適正な処分決定などが目的外であると考えるべきではない(最高裁決定昭和585810102626日「流山中央高校放火未遂事件」における裁判官団藤重光の補足意見)。

少年の区分と定義

「少年」とは、2020歳に満たない者を指す(少年法第22条第11項、第33条第11項等)。

  • 非行少年(以下の3つの総称):

    1. 犯罪少年: 罪を犯した少年(1414歳以上2020歳未満)。

    2. 触法少年: 1414歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年。

    3. 虞(ぐ)犯少年: 以下の虞犯事由に該当し、性格・環境から将来罪を犯す、または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年。

  • 不良行為少年: 非行少年には該当しないが、飲酒、喫煙、深夜徘徊、その他自己または他人の徳性を害する行為をしている少年(少年警察活動規則による)。

少年事件手続の概略と統計

事件の処理フロー
  • 犯罪少年: 警察が捜査を行い、罰金以下の事件は家庭裁判所(家裁)へ、禁錮以上の事件は検察官へ送致される。検察官は原則として全件を家裁に送致する。

  • 触法少年: 警察が調査を行い、必要に応じて児童相談所(児相)へ通告・送致する。一定の重大事件は児相から家裁へ送致される。

  • 家庭裁判所の審判:

    • 調査・審判開始: 少年鑑別所への収容(観護措置)が行われる場合がある。

    • 保護処分: ①保護観察、②児童自立支援施設・児童養護施設送致、③少年院送致。

    • その他: 検察官送致(逆送)、知事・児相所長送致、不処分、審判不開始。

処理人員(令和77年版犯罪白書による令和66年の数値)
  • 警察から送致された犯罪少年: 約5.35.3万人

  • 検察から家裁へ送致された人員: 約5.05.0万人

  • 家裁における決定状況:

    • 保護観察: 約1.11.1万人

    • 少年院送致: 約1,8281,828

    • 児童自立支援施設等送致: 113113

    • 検察官送致(刑事処分相当): 2,9332,933

    • 不処分・審判不開始: 約3.43.4万人(2.12.1万人 + 1.31.3万人)

少年犯罪の歴史的背景と重大事件

社会的転換点となった凶悪事件
  • 神戸連続児童殺傷事件(平成99年): 1414歳の男子中学生が小学生を相次いで殺傷した事件(死亡22名、負傷22名)。犯人が「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)」を名乗り、新聞社へ犯行声明を送ったことが社会に衝撃を与えた。

  • 西鉄バスジャック事件(平成1212年): 1717歳の無職少年が佐賀発福岡行きの高速バスを乗っ取り、乗客11名を殺害、44名を負傷させた事件。広島県内のサービスエリアで警察が突入し解決した。

検挙人員の推移
  • 刑法犯少年の検挙人員は、19831983年(昭和5858年)の約2525万人(人口10001000人当たり18.818.8人)をピークに減少傾向にある。

  • 20212021年(令和33年)には約2.22.2万人(人口10001000人当たり1.48181.4818人)まで減少した。

少年犯罪(非行)対策の変遷と法改正

少年事件の特性
  • 心身が未成熟で誘導されやすく、大人に迎合しやすい。

  • 可塑性: 性格や行動が変化しやすく、教育による矯正の可能性が高い。

主要な法改正の歴史
  • 20002000年(平成1212年): 刑事処分可能年齢を1616歳から1414歳に引下げ。殺人等の重大事件における「原則逆送」制度の導入。被害者による記録閲覧、意見聴取制度の導入。

  • 20072007年(平成1919年): 触法少年の調査手続整備。少年院送致の下限年齢を「おおむね1212歳以上」に設定。国選付添人制度の導入。

  • 20082008年(平成2020年): 被害者による少年審判の傍聴制度導入。家裁による被害者への審判状況説明制度の導入。

  • 20142014年(平成2626年): 不定期刑の上限を「長期1010年・短期55年」から「長期1515年・短期1010年」に引上げ。

  • 20212021年(令和33年): 成年年齢(1818歳)引下げに伴う改正。

    • 特定少年: 1818歳および1919歳の少年を定義。

    • 家裁送致の原則は維持しつつ、強盗罪等の短期11年以上の拘禁刑に当たる罪も原則逆送の対象に追加。

    • 起訴された場合の実名・容貌等の報道(推知報道)の解禁。

非行の心理学的・生理学的側面

思春期の発達的特徴
  • 情動系と抑制系の不均衡: 大脳辺縁系(情動)の亢進に対し、前頭葉(抑制機能)の成熟が遅れるため、一過性のリスク行動に走りやすい。

  • 抑制機能の変化:

    • 児童期: しつけや報酬・罰に基づく短期的・具体的な自己制御(外発的動機づけ)。

    • 思春期・成年期: 有能感や言語発達に基づいた長期的・抽象的な自己抑制(自己効力感、内発的動機づけ)。

  • メタ認知能力: 他者参照、自己参照、未来の自己予測能力の発達が非行防止に寄与する。

最近の少年犯罪情勢(令和33年〜令和77年)

罪種別の内訳(令和33年)
  • 窃盗犯: 50%50\,\%

  • 粗暴犯: 19%19\,\%

  • 知能犯: 6%6\,\%

  • 凶悪犯: 3%3\,\%

  • 風俗犯: 3%3\,\%

  • その他: 19%19\,\%

特別法犯の状況(令和77年)
  • 検挙人員計: 4,6674,667

  • 大麻取締法: 1,3731,373人 (29\,\%$)\n* 軽犯罪法: 869(人 (19\,\%$)

  • 児童買春・児童ポルノ禁止法: 727727人 (16\,\%$)\n\n### 特発型非行(初発型非行)\n万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領の4類型を指す。単純な動機で行われることが多いが、本格的な非行(粗暴犯や薬物乱用)への「入り口」となる懸念がある。令和類型を指す。単純な動機で行われることが多いが、本格的な非行(粗暴犯や薬物乱用)への「入り口」となる懸念がある。令和7年の検挙人員は約年の検挙人員は約1.1万人規模。\n\n### 共犯率の推移\n少年の刑法犯共犯率は20\,\%30\,\%台で推移しており、成人(約台で推移しており、成人(約10\,\%前後)と比較して極めて高い。グループで行う非行の特性を示している。\n\n## 現代的な課題:SNS、闇バイト、薬物、サイバー犯罪\n\n### 特殊詐欺と闇バイト\n* **役割**: 「受け子」が約8(割 (75.2\,\%$) を占め、次いでリクルーター (6.7\,\%$)、出し子 (5.8\,\%$) と続く。

  • 経緯: 知人からの紹介 (6\,\%$) よりも、SNSを通じた応募 (3\,\%$) による加担が顕著になっている。

  • 対策: SNS(シグナル、テレグラム等)を用いた高額報酬の募集が犯罪であることを周知するための広報啓発。一度個人情報を渡すと、脅されて抜け出せなくなるリスクを強調。

大麻の乱用
  • 令和77年の大麻事犯検挙人員は1,3731,373人で増加傾向。

  • きっかけ: 「友人知人からの誘い」が約64.3%64.3\,\%、「ネットを見て自分から」が約26.5%26.5\,\%

  • 背景: 「身体への影響がない」「依存性がない」といった誤った情報の拡散。警察は動画や学校での薬物乱用防止教室を通じて、脳への悪影響や「ゲートウェイドラッグ」としての危険性を啓発している。

サイバー犯罪の事例
  • 20252025年、1616歳の高校生が自作プログラムを用い、インターネットカフェ運営会社に対し約725725万回の不正指令を送信。725725万件の会員情報を不正取得し、偽計業務妨害および不正アクセス禁止法違反で検挙された。

  • DDoS攻撃: 複数コンピュータからサイトへ一斉過剰アクセスを行う攻撃。警察は「必ず捕まる」ことを強調し、注意喚起を行っている。

少年非行防止のための取組

警察の活動
  • 少年サポートセンター: 心理学・教育学等の専門知識を持つ「少年補導職員」を中心に構成。非行相談、街頭補導、立ち直り支援(農業体験、学習支援、清掃活動)を行う。

  • 少年警察ボランティア: 少年補導員(約4.44.4万人)、少年指導委員(約5,2005,200人)、大学生ボランティア(約8,6008,600人)などが街頭補導や居場所づくりに従事。

学校・警察の連携
  • 学校警察連絡制度: 都道府県単位で締結された協定に基づき、非行等の問題を情報共有する。

  • スクールサポーター: 警察官OBなどが学校を訪問し、いじめや校内暴力への指導・助言、パトロール、防犯教室を実施。全国に約2,4002,400の協議会が存在する。

少年院における社会復帰支援
  • 就学支援: 高校卒業程度認定試験の学習支援、広域通信制高校との連携。

  • 就労支援: ハローワークと連携した相談、介護・パソコン等の資格取得支援。一部施設では原付免許取得も可能。

  • 福祉的支援: 精神保健福祉士の配置、療育手帳の発行手続き支援、薬物・アルコール依存からのリハビリ支援。

少年の犯罪被害(性被害)

被害の現状と法的対応
  • SNSに起因する被害: 低年齢化が進行(小学生の被害増加)。児童からの書き込みがきっかけとなるケースが約77割に上る。

  • 法整備と刑法改正:

    • 20172017年(平成2929年): 強姦罪を「強制性交等罪」に改称、非親告罪化、性別を問わない規定に変更。

    • 20232023年(令和55年): 「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」へ改称。性交同意年齢を1313歳から1616歳に引下げ。

    • 性的姿態撮影等処罰法: 性的姿態撮影罪(撮影罪)の新設。

    • こども性暴力防止法(日本版DBS): 学校や学童等の事業者に、従事者の性犯罪前科確認を義務付け(令和881212月施行予定)。

性被害防止の仕組み
  • 児童買春・児童ポルノ禁止法: 1818歳未満の児童に対する買春や、ポルノの製造・所持・提供を厳禁。インターネット接続業者へのブロック要請努力義務。

  • インターネット・ホットラインセンター (IHC): 利用者からの違法情報通報を受理し、警察への通報や削除依頼、フィルタリング事業者への情報提供を行う。

  • フィルタリング: 青少年インターネット環境整備法により、1818歳未満の契約時に原則加入を義務付け。SNS起因の事犯における被害児童の88.1%88.1\,\%がフィルタリングを利用していなかった(令和44年統計)。

司法面接(代表者聴取)
  • 児童相談所、警察、検察の33機関が協同で一度に聞き取りを実施すること。児童の心理的負担(何度もつらい記憶を話すこと)を軽減し、証言の「記憶の汚染」を防ぐ目的がある。

  • 刑事訴訟法第321321条の3320232023年改正)により、一定の要件下で主尋問に代えて録音・録画記録媒体を証拠とすることが可能になった。

いじめ事案への対応

いじめの認知と法的枠組み
  • いじめ防止対策推進法(平成2525年): いじめの禁止、早期発見措置、重大事態への対処などを規定。

  • 現状: 学校での認知件数は増加傾向にあるが、警察が検挙・補導する重大ないじめ事件は減少傾向にある。

警察としての対応方針
  • 基本的には教育現場の対応を尊重するが、以下の場合は迅速に捜査・調査に着手する。

    1. 生命、身体、財産に重大な被害が生じている事案。

    2. 被害児童や保護者が犯罪行為として扱うことを求める事案。

  • いじめ起因の検挙・補導人員: 中学生が最も多く、次いで高校生、小学生。罪種別では「暴行」「傷害」が大部分を占め、SNSを利用した「不同意わいせつ」や「児童ポルノ」事犯も散見される。